2024年10月27日(日)、栃木県の農村(中山間地域)への理解促進を図るため、農村で活動する地域団体と農村ボランティア活動に興味がある方を対象としたとちぎ農村ファン交流会“農村MeetUp!”が開催されました。
今回の受入団体は、那須塩原市を拠点に、耕作放棄地対策、林道・古道整備、トレイルラン、マウンテンバイクなど、“地域を良くするヒミツのアクティビティ”を行う『一般社団法人 青空プロジェクト THE DAY』さん。
那須塩原駅までは、東京駅から新幹線に乗っておよそ1時間。歴史ある『塩原温泉郷』や本州一位の生産量を誇る新鮮な生乳、四季折々の絶景が楽しめる広大な自然美やガイド付きネイチャーツアーなど、県内外から多くの人が訪れる人気の観光地でもあります。見どころがたっぷりあるようですが、まだ私たちが知らない那須塩原の魅力が隠れているはず…!
ということで、『青空プロジェクト THE DAY』さんのディープな活動現場に潜入しつつ、交流会の様子をお伝えしていこうと思います〜!
《a.m.11:00》顔合わせ、自己紹介、団体説明
まずは『栃木県営 古町無料駐車場』に集合し、参加者のみなさんと『青空プロジェクト THE DAY』さんで顔合わせ、自己紹介を行います。お一人はもちろん、ご家族で参加されている方も多く、子どもの賑やかな声が響きます。この日はちょうど秋晴れで過ごしやすく、柔らかな陽の光が心地良い気候でした。
簡単に自己紹介を済ませた後は、『青空プロジェクト THE DAY』さんの団体説明へ。代表理事の君島 陽一(きみしま よういち)さん(愛称:ダイヒョー)は、周囲の山々を時折見渡しながら、「獣害をもたらす動物と人間は“哺乳類”という観点からも共通する部分が多い」と語ります。
「自分を猿や鹿だと考えたとき、『こんなことがしたいんだろうな』『こんな条件を満たすとこうなるんだろうな』『自分がされて嫌なことは嫌なんだろうな』と思って。それが今行っているプログラムにつながっています」
続いて、団体を立ち上げたきっかけの話へ。
「猟師の先輩と一緒に罠をかけていたあるとき、『そんなに汗を落としたら動物が罠にかからないじゃないか!』とすごく怒られたんです。そのとき、『人間の匂いを嫌うのなら、そうした場所をもっと増やしたらどうか?』と思い立ちました。そして山の整備を行いマラソン大会を開催したら、猟師の方から『山が綺麗になると狩猟がしにくくなる』『きのこ採りが山に入りやすくなる』と言われてしまいました。
そこでまたはっとして、『道を綺麗にすれば自転車に乗れるし、ハイキングやランニングもできる。アクティビティ好きの人を呼び込んで一緒に貢献してもらおう!』と思い、5年ほど前からさまざまなイベントを行っています」
「見てください、この里山が広がる中山間地域を。活動を通じて山に触れる機会が増え、山と共に生きていくうちに、地域のことがどんどん好きになりました。お年寄りの方がかつて『きのこや熊をとった』という場所や猿や鹿の縄張りに行くことも増え、この活動の必要性を改めて実感しているので、それをみなさんにも伝えたいと思っています」
「『5〜10年後にどんな那須塩原市がのこっているか』と考えると、やっぱり僕たちが立ち止まってはいけない。今できることを少しずつやっていけば、観光地から離れた場所ですら観光地になったり、保全して多くの人に知ってもらいたい場所になるかもしれない。『ここが生まれ変わったらこんなことしたいな』と妄想しながら、ぜひ一緒に古道を整備していきましょう!」
《a.m.11:30》活動場所の見学
『青空プロジェクト THE DAY』さんの活動のきっかけや想いに触れた後は、バスに乗り込み、活動場所のひとつである耕作放棄地(現在は蕎麦畑)へ。耕作放棄地を譲り受けた当初は、蜂に刺されながらも2週間かけてボランティアで草刈りを行っていたそう。その後、大人も子どもも遊べる畦道にしたり、蕎麦や菜の花の種まきイベントを開催したりと、みんなでこの場所を形づくりました。
そして耕作放棄地を蕎麦畑や菜の花畑に生まれ変わらせる構想を描きつつ、採れた蕎麦粉が中々売れない現状に葛藤していたところ、近所のお母さん方が「私たちがなんとかするわ!」と立ち上がったそう!そして、「ここで採れた蕎麦粉などを使ってボランティアの人に食事を提供しましょう」と、ご飯を作りボランティアを迎える『青空食堂』が生まれました。
《p.m.12:00》昼食交流会
早速一行は、お母さん方がご飯を作って待ってくれているという、なんともほっこりする『青空食堂』へと歩を進めます。
「はあい、本日のメニューは、塩原大根カレー、カブの白たまりづけ、かぼちゃの煮物、シシトウの味噌炒め、千切り大根の漬物、大根と人参の金平、人参のバター炒めです〜!」
お母さんが元気に説明してくださいました。こだわりが詰まった温かな手作りメニューに、みなさん思わず頬を緩めます。
塩原大根カレーは水っぽさが全くなく、味の染みた塩原大根がカレーの辛味と絶妙にマッチ。野菜がメインの副菜は、素材の味を活かしつつしっかりとした味付けで、どれも新鮮そのもの。かぼちゃの煮物はねっとりほくほくで、熟した甘さが口いっぱいに広がります。
美味しさのあまり、何杯かお代わりする方も!(笑)健康的で美味しいご飯で、お腹も心も満たされました。朝早くから下拵えや準備をしてくださったお母さん方に感謝を伝え、しばしの食休みを挟み、いよいよ活動現場である山に入っていきます!(お母さん方が「行ってらっしゃい」と手を振ってお見送りしてくださいました♩)
《p.m.1:00》現場までのガイド、ウチノウラトレイル(古道)の整備活動
『青空食堂』の右手にある道路を登ると、500年以上の歴史があるという古道が。急勾配の道が続きます…!
そうしてしばらく進んだところにひらけた道が。こちらは、昭和30年頃にできた比較的新しい道。この道ができる前、地域住民の方々は、先ほど通ってきた急勾配の道を日頃から使っていたとのこと。タフだ…!
植林されているところは誰かの土地だそうで、地域住民の方はめいめいに山を所有しており、道や樹木を境界線にすることが多いそう。ただ、間伐をしないと樹木同士が互いの成長を妨げ、熊や鹿が樹皮を剥ぐいわゆる“皮剥被害”につながることも。
君島さんは、「人間が本来やるべきことを怠っているから、動物が(皮むき間伐を)やっています。『人間が頑張らないなら僕たちがやるからね』と、動物たちがメッセージとして伝えてくれているんです」と言います。
さらに山奥へと歩を進めます。こちらはかつて牛や馬を引いて歩いていた場所だそうで、道幅はなんと80cmしかありません。まさかこんなところを通っていたなんて…!うっかりバランスを崩したら落っこちてしまいそうな道の細さにびっくり。
途中で獣が通った跡や倒木に遭遇し、「猿が出ている兆候かもしれない」と君島さん。私たちの安全な暮らしのためにも、日々パトロールをし、変化に気づくことが大切だそう。
森林の香りにうっとりしながら歩いていると、突如ひらけた道に到着!美しい山々がくっきり見え、視界がぱっと明るくなります。
ここは君島さんのお子さんの名前の由来にもなった景色だそうで、小学校の帰り道に通った際、西陽が差し込みいろどりを帯びて輝く山々を見て、「すごくきれい」と幼心に感じたことを未だ鮮明に覚えていると言っていました。
そしていよいよ本日の活動現場、古道である『ウチノウラトレイル』に到着!君島さんは柴(※小さな雑木や枝)を指差し、「これを乾燥させて燃やし、火おこしの燃料として使います。小屋いっぱいになった際の取り引き価格は、現在の貨幣価値に換算して5万円ほどになります。山には食べられるきのこや葉っぱ、お金になる柴が沢山あって宝の山なのに、今では人があまり寄り付かなくなりましたよね」
「山での暮らしは何百年と続けてこられたのに、私たちの暮らしは今ではたった数十年単位で脅かされています。そんな状態では、子どもたちに未来を託せない。だからこそこうした山々で、その地域でしかできないアイデアで、さまざまな未来を想像することが重要だと思うんです」と語ります。
“今、本当に必要なものは何か”。山は私たちを原点に立ち返らせ、大切な問いを投げかけてくれているのかもしれません。山に触れて少しでも現状を知ることが、私たちのこれからの暮らしを左右するのかもしれませんね。
そんなことを考えながら、活動スタート!今回の整備内容は、熊手で落ち葉を履き、落ちている枝を集めて束にするというもの。参加者のみなさんは、スタートと同時に真剣なまなざしで取り組みます。子どもたちも一心不乱に熊手を振ります!日常を離れて心をリセットし、自然下で無心になって何かに没頭するという体験は、意外と貴重なものかもしれません。
《p.m.3:00》おわりに
1時間ほど作業に没頭し、今回の活動はこれにて終了となります!普段あまり使わない熊手やノコギリに苦戦しつつも、みなさん本当に一生懸命で、達成感に似たすっきりとした面持ちに。涼しかったはずが、終わるころには少し汗ばむくらいになっていました。
最後に、大人や子どもが遊べる山中の遊び場、『うちのうらシークレットベース』までハイキング。遊び場までダッシュで山を駆け降りる大人や子どもも!そして到着した途端、子どもたちは遊具へまっしぐら!元気だ…!
君島さんは山に関わる上で、「無駄なことは何ひとつない」と言っていました。間伐を行うことで野鳥が棲みつき、枯れた木にキツツキが穴を開け、倒木にきのこが生え、動物や人間が食べる…そんな脈々とした里山のいのちの循環をつくり、つなぎ、共に生きる取り組みは、私たちの安心・安全な暮らしを維持する上でもとても大切なもの。
山と私たちの関係性や山との関わり方、山と共に生きることの意味について、改めて考えさせられた貴重な機会となりました。
情報に呑まれ、怖さや不安が勝って無意識に山を遠ざけていた私ですが、山と共に生活を営んでいた素敵な歴史がたしかにここにありました。「現地を訪れることで初めて分かることがある」と再認識したので、これから家族や子ども、友人を連れて山を訪れ、身体を使いながら楽しく学ぶ“山と共生する文化”がより多くの人に根づくといいな、と今では心から感じています。
そして自然の恵みを享受している私たちは、美しい里山を守らなければいけない責任があると、改めて実感しました。
素敵な体験と学びを、本当にありがとうございました!!!