私は子供の頃から運動が大嫌いであった。
小学生から高校生までずっと体育の成績は悪く、休日の大半は家に引きこもって生活していた。とにかく運動から逃げて生きてきた私だったが、唯一好きだった外遊びが自然の中でも遊びだった。
祖父は釣りや山菜取り、畑が趣味で小さいころから祖父と自然の中で遊ぶ機会が多くあった。川で釣った魚や、山の山菜、育てた野菜を食べた経験は楽しい思い出になっただけでなく、食の大切さを考え直すきっかけでもあったと感じている。
しかし、最近の子供は自然の中で遊ぶことが少なくなっている。
学校では川や山は危ないから立ち入るなと言われ、環境悪化により、多様な生物が日常の隣にいる事も少なくなってしまった。
そんな中、子供たちと自然との距離感をもっと近づけようと活動している団体がある。
それが、「なかがわ里山元気倶楽部」の皆様である。
栃木の大海原は山々の中にあった!!
9月某日。久方ぶりに那珂川町を訪れた。
実は那珂川町にある高校に通学していた筆者にとって馴染み深い土地ではあるのだが、高校があったのは橋を渡った旧馬頭町側。今回訪れたのは旧小川町側と少し違った土地だ。
馬頭町側は那珂川やその支流が至る所に流れており完全な「川」の町といった印象があるが、小川町側は川だけでなく山や畑といった緑の主張も大きくまさに日本らしい自然を感じ取れる土地柄であると感じた。
当日、なかがわ里山元気倶楽部の皆様やTUNAGUの参加者の方と合流し、軽く自己紹介を済ませ、拠点を紹介していただいた。
空き家を借りて自分達で修繕したという拠点は古民家の様な趣を残しつつ、清潔に保たれており過ごしやすい空間になっていた。田舎の祖父母の家に来た様な感覚だった。
拠点を後にし、最初に向かったのはすぐ近くの箒川。那珂川の主要な支流のひとつである。
拠点の周りは一面の緑で空気も美味しく、パソコンの前に向かってばかりの大学生活で疲れた目を癒やしてくれた。こんな所も自然特有の良さなのだろう。
箒川では和船の乗船体験をした。和船は主に川漁師が使う小型の船で非常にシンプルな構造をしている。シンプル故に操船は非常に難しく、一歩間違えば沈してしまう。
また、和船は乗り物ではなく川の上で漁を行うためのステージであり、和船の揺れる狭いスペースの上で投網を投げる等の別の動作も求められる。
実際に投網を投げる様子を間近で見せていただいたがまさに達人の技だった。丘の上からでも難しい投網を船の上で完璧に投げる。川と生活を共にしてきた地元の方達だからこそ出来る技である。
和船から見た川は透き通った水で水面がキラキラと輝いていた。魚や昆虫等様々な生物達と触れ合う事も出来た。
近年では名物であった鮎の漁獲量減少や外来種であるブラックバスが問題になっており、今後は生物調査も活動に取り入れる予定である。
自然と向き合うということ
次に畑を紹介していただいた。
なかがわ里山元気倶楽部では耕作放棄地を借りて畑を再生する活動も行っている。季節の野菜やイモ等様々な種類を栽培しており、収穫体験を実施する事もある。
見渡すと辺り一面の畑で壮観の眺めであった。しかし、放置された畑も多く所々荒れてしまっている。
高齢化や人口減少が主な原因だ。耕作放棄地を積極的に借りて有効利用を考えているが、先祖代々の土地を人に貸せない等の理由で借りる事の難しいケースや人員の問題もあり、全体の整備は難しい状況だ。
畑の周辺では山柿や栗、蜜蜂の巣等を見つけた。
至る所に自然の面白さが詰まっており地域全体がクエストのマップの様である。1日かけてじっくり探索したいくらいだ。次は個人的に来て探索してみたいと思った。
お昼休憩を挟んだ後、遂に作業の開始である。
まずは拠点の裏にある竹林を整備した。竹林は1年放置しただけで取り返しがつかないと言われる程の急成長を見せる植物で定期的な伐採が不可欠である。
樹木ほどの重さはないが硬い竹を切り運ぶ作業は腰への負担が大きい。想像しているよりハードな仕事であり、若い力が必要になる仕事だと感じた。
竹林での作業を終えた後、再び畑に向かいTUNAGUの畑を作った。
畝立てや種まき、水やり等かがんだ姿勢でやる仕事が多く、こちらの作業でも腰へのダメージが絶大である。
しかし、終わった後の達成感や今後どの様に成長するのか想像するのは素晴らしい時間だった。
もっと良い未来の那珂川へ向かって
次に筆者が心に残った点について読者に伝えたい。
それが、「那珂川町の良さをもっと沢山の方に知ってもらいたい」というメンバーの方達の思いだ。
自分たちの生まれ育った那珂川町には数えきれない良さや魅力、そこにしかない体験がある。しかし、那珂川町の魅力を発信し、知ってもらえるきっかけはあまりにも少ない。
だからこそ、誰かに頼るのではなく自分たちの力でやる。自分の故郷のために力になりたいと思うその強い志に感銘を受けた。自分ではなく周りのために自ら行動出来る人間に私もなりたいと感じた。
また、より多くの人に魅力を伝えるために今後はより体験活動に力を入れ子供達との交流を増やしたいと話していた。
最近の子供達は自然に触れる機会が少なく、自然での遊びを知らない人が多い。そのためもっと身近に自然に親しんでもらうため、サツマイモ掘りや鮎焼き、ひょうたんの絵付け等様々な施策を行ってきた。
今後はより充実し、より多くの子供達や家族に那珂川町に訪れてもらい、体験してもらいたいと話していた。
また、受け入れサイドの気付きも多いらしく生涯学習の場としても重要だと感じた。
畑に地下に伏流している水源を活用したビオトープ建設も考案中らしく、こちらも今後が気になるトピックスだ。
筆者自身の那珂川町に通学していた経験から書くが那珂川町は1回行けば良さに気付き、3回行けば好きになり、10回行けば住みたくなる町である。なかがわ里山元気倶楽部さんとの交流を通して再び強く感じる事が出来た。
このレポートを読んで少しでも那珂川町に興味を持った皆さんも体験や活動に参加してみて欲しい。そして是非那珂川町を好きになっていただきたい。
最後にインタビューの際に聞いた最も心に残った言葉を記し、このレポートを終了させていただく。
別れる時にさようならは言わない。またおいでを大切に
この記事を執筆したのは
帝京大学 経済学部地域経済学科 小林優作さん
TUNAGU内関連ページ
TUNAGU団体紹介 【なかがわ里山元気倶楽部】
この記事に関するお問い合わせ先
栃木県農政部農村振興課 農村・中山間地域担当 里づくりチーム
TEL:028-623-2334
Mail:noson-sinko@pref.tochigi.lg.jp
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