緑に包まれた里山と、住人の手によって大切に受け継がれ続けてきた田畑。日本の原風景といえば、多くの人々がこのような光景を思い浮かべることでしょう。しかし、ふと立ち止まって周りを見渡すと、私たちの目に映るのは雑草で荒れるに任せているかつての畑であり、かつての里山です。このような光景のほとんどは、少子高齢化に伴う維持管理の後継者不足に起因しているのです。面積に占める山間部や農地の割合が高い栃木県において、耕作放棄地というのは最も重要な課題の一つと言えます。それどころか、日本全国を悩ませる解決困難な問題でもあるのです。
この難問に立ち向かうべく、豊かな自然に囲まれた栃木県佐野市多田町柴田地区で、毎年着実に畑を蘇らせている団体があります。長年に渡り地元で畑を耕し続けてきたプロが勢ぞろい。外部ボランティアの方々と連携しつつ活動を行う、柴田保全会です。18名の会員で、利用されなくなった約4ヘクタールの農地を維持していらっしゃいます。主な活動内容は、草刈りや作物の収穫、堆肥作りに水路プロジェクトなど盛りだくさん。今回は、筆者にとっても故郷である元・安蘇郡のこの地で、柴田保全会様の里芋収穫に参加させて頂きました。
歴戦のプロに教わる里芋収穫
当日は賀茂別雷神社にて、里芋収穫に参加する皆様との顔合わせから始まりました。TUNAGU会員のボランティアの方やNPO法人自然史データバンクアニマnetの皆様、また、地元・多田町で長年農業に携わってこられた歴戦のプロの皆様にご挨拶をします。一通り自己紹介が終わると、柴田保全会代表の毛利さんを先頭に、さっそく里芋畑に移動しました。
柴田地区は先の写真のように、荘厳な山々が周囲をぐるりと取り囲むといった、安蘇地域によく見られる特徴を持っています。それぞれの山頂は、前日の雨天がもたらした深い霧に包まれていました。このような山から得られる落ち葉の堆肥などは耕作に利用できます。「日本の原風景」は単なる景観美ではなく、自然の恩恵を余すところなく活用した結果なのだと改めて実感しました。
さっそく里芋の収穫に取り掛かります。写真のプロが掲げるこの大きな茎こそが、豊かな土の下に眠る里芋に繋がっているのです。私もこの形状の葉や茎は地元の畑で見慣れていましたが、地中に何が埋まっているのかは知りませんでした。これが里芋だったとは。
そんな初心者である私たちに、皆様はとても丁寧に作業の説明をしてくださいました。プロの方々のお話は、ご自身がこの土地で長年積み重ねた実体験に基づくものです。だからこそ、一つ一つのお言葉が染み込むように頭に入ってきました。そして、プロの方々にとっては当たり前すぎて言葉にするのが難しい感覚的な所では、熟練外部ボランティアの方々が万全のサポートで補足を加えてくださる。柴田保全会は、このように地元のプロと外部の方々との密接な信頼関係があるからこそ、初心者でも安心して参加できる雰囲気づくりが出来ているのだと思いました。
参加者の方のお話によると、互いに助け合いながら農村で田畑を耕す人々同士は、切っても切り離せない「結」という関係にあるそうです。この日の里芋収穫を通して、参加者同士がお互いを支え合う姿は、まさに「結」そのものでした。
ふと後ろを振り返ると、眼前には葦の草原と、その向こう側に霧にかすむ街並みが。ゆくゆくはこの草原も整備し、元来の水路を取り戻す計画だと毛利さんは仰っていました。
ドローン撮影体験
収穫作業を終えると、参加者の方が所持するドローンを霧の上まで飛ばしていただき、上空から畑の撮影を行いました。ドローンを使えば、耕作放棄地の草むらの中でもはっきり様子が視察できます。また、畑にやってくる獣たちを威嚇する役割も果たせるのだとか。このように、最新機器を駆使した参加者の方々との連携は柴田保全会の大きな強みです。
会食
さて、いよいよ里芋を調理していきます。といっても、里芋はプロに茹でて頂くことになり、私たちは前段階として泥を洗い落とす役割を担いました。
写真のような大きな板や、対になった二本の木の棒を使って、水を入れた桶の中の里芋をかき回していきます。思ったよりも力の要る作業で、何度も交代してジャブジャブと器具を回転させました。すると、右のように泥がほとんど流れ落ちて綺麗になりました。
最後に、公民館に集まってみんなで茹で上がった里芋を食べました。手で皮をむき頂きました。アツアツで醤油とよく合います。何よりも、自分の手で収穫した里芋は本当に格別でした。
この公民館は地元の若者たちが楽器の練習場所として使用しているそう。彼らのコンサートのために、地元の元職人さんが協力して下さって、なんと古民家の廃材でステージを設置して下さったのだとか。このように、定年を迎えた地元住民たちが協力し合う機会を作ることで、住民同士の親睦が深まることは勿論、防犯効果や健康向上の効果もあります。
柴田保全会様の一番の理念は、地域の内外を越えてみんなでやっていこうという姿勢です。近年は新たに農業を始める人々が増加していますが、農業はただ土地があればよいというわけではありません。土地ごとに水や土の特性が異なり、当然育つ作物も違ってきます。だからこそ、新たな担い手と、長年地元で耕作を行ってきたプロが協力し合うことが何よりも大切なのだと毛利さんは仰っていました。
帰りに里芋をたくさん分けていただきました。今回の体験を通して、人と人の「結」があって初めて耕作が始まるのだと学びました。
皆様もぜひ、柴田保全会様の活動を通して「結」を体験してみませんか。
この記事を執筆したのは
東京女子大学
高月奏音さん
柴田保全会の関連ページ
- 団体紹介:佐野市多田地区 柴田保全会です
この記事に関する問合せは
栃木県農政部農村振興課 農村・中山間地域担当 里づくりチーム
TEL:028-623-2334
Mail:noson-sinko@pref.tochigi.lg.jp
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